小野敏洋『甲殻機神 ヤドカリくん(復刻版)』
大量のおでんを買い占めると、そのまま海に消えていく……。そんな怪談なのか笑い話なのかよくわからないおでん怪人が巷を騒がせる。ちょっと未来。 コオは、ある日、そのおでん怪人に出会う。そしてたまたま当たったおでん怪人、しかし、その正体はちいさな『タコ』が集まったもの!? そして、あろうことかそのタコ、ギブギブたちは、コオの幼馴染のフッコをさらって海に逃げ込む。 それを追ったコオが見たものは、さめがヒューマノイドに進化した、サメ人間、ピストリクイーレたちだった!
さらに、コオは彼らが対人間兵器エンキドウを作っているところを目撃する。そして、それを辞めさせようと乗ってきたロボット えびす丸(Created by じーちゃん)を使ってそれを止めようとする。
しかし、そのエンキドウと、えびす丸は、絡み合ってサメ人間たちが使うエネルギー炉、時間反応炉に転落する。そして、そこから二つが融合して二つのはさみと大きな瞳、そして円錐形の殻を持つ、まるで、ヤドカリのような……。
昔々、月刊コロコロコミックに掲載された異色作、その後、てんとう虫コミックススペシャルとして刊行されるも廃刊になった作品「ヤドカリくん」の復刻版であります! 著者はトラウマ漫画「バーコードファイター」でおなじみ(ぉ の小野敏洋氏であります。
なんつーか、コミックスのストーリーを紹介するのはなかなか難しく、なんか無闇に長くなってしまったわけでありますが……書いてみると結構スペクタクルがありそうな感じであります。一見すると。
少年は、一人の少女を守るため、海中へと追う。海中より迫るサメ人間! 彼らが作り出す超対人間兵器エンキドウ。それに対抗するために打ち話された彼の矢はエンキドウと刺し違えるも、時間反応炉の藻屑に……。そしてつかまってしまうコウ……。
煮えたぎる大がまの前に立たされた少年と少女は、辛くもヤドカリ方の物体に救われる。ピストリクイーレが生みしモノ、人間(ヒト)が生みしモノ、その二つが融合した“彼”は、少年を救うことを選択する。そして、それが少年と、“ヤドカリくん”と、少女との長い物語の始まりだった……。
などと書くと、結構一大スペクタクル大冒険、殺伐としているみたいに見えます。キーワードを取り出すと、なかなかなんでありますが、しかし実際は読んでみると、わくわくするし、どきどきもするのだけれど、どことなくこう、全体的な雰囲気にやさしいものと言うか、全体の根底を流れるメッセージと言うか、そういうものがあって、なんとなくほっこりしちゃうのであります。
それは全体に見える造形にも言えるし、なんというかなんとなくSF成分があってだけどその使い方がやさしいというのがいい感じである。一言で言うと、すごく優しいのであります。
それは「易しい」ではなくて「優しい」。たとえば、ヤドカリくんのことは決してコオや登場人物たちは「ロボット」とは言わないし、ギブギブたちがフッコを連れて行ったのも、それはギブギブたちの本能「欲しいもの(美しいもの)を欲しがる」という本能によることで……フッコちゃんは一言で言うとめがねっこでこう、ある意味彼らはめがねっこがなんたるかということを本能で持つ愛らしいマスコット的キャラクターなのであったりします。つまり、一緒にいたかったからと言う感じなのでありますな。
しかし、その中で流れるSF成分というかそういうものがしっかり感じられたり、あと小野敏洋氏が描く未来感……実際には2005年なので、去年を舞台にしているということになりますが(汗……がいい感じなのであります。なんというか、未来っていって、ものすごく未来していない。たとえば、学生がみなノートパソコンまたはそれに変わるようなものをもって歩いていたりはしないし、普通に野球だってする。だけど、そこにはヤドカリくんがいて、町の発明家なじーちゃんがいて。……あと、読んだ当時、普通に毎月五百円玉を握り締めて近くのエーコープいコロコロコミックを買いにいっていた田舎の少年の自分としては、一番衝撃的だったのは納豆嫌いのコオが、結局ねーちゃんには逆らえずメシ抜きになったところで、夜、一人でコンビニに行くところだったりしたのですが、そこらへんを含め、未来名匂いがいい感じなのです。
そのほか、注目すべきはヤドカリくんのデザインでありましょうか。つーかなんとも単純なのでありますが、その単純ながら愛らしいデザイン……つーより、あんな友達がいればたのしーだろうなーてな感じであり、また名は態をちゃんと現していて、それがコオのじーちゃんが作り上げたシェルテクター……つまり、ヤドカリに似ているヤドカリくんがつける「シェル」で、合体することによってヤドカリくんの能力と加わっていろいろなものになるのでありますが、これのデザインがちゃんとしていて良かったのであります。つーか、それこそ機能美みたいなものがあるというか、妙な武器がついていたりとかはしないというのももちろんありますが、たとえば飛行機(固定翼機)型のシェルテクターが、着陸するときにちゃんと脚を出しているあたりはなんかそういう当たり前のリアリティと、だけどヤドカリくん印で、あれはヤドカリくん以外の何者でもない、っていうあのまんまるーっていうか、丸みのあるデザインがよい。
実際には本編には、海中潜航型と、大きなタイヤのドリル・オフロード型と、ちょっとした四輪型と、飛行機型(固定翼機)ぐらいしか出てこないのだけれど、今回の復刊版ではデザイン画などが収録されている。原案では二枚貝な妹とか、深海艇型とか、曰く「どことなくTB」な宇宙型などというのもあって、大変残念ながら活躍はみられなかったのだけれど、そのあたりも……やっぱりそういうのを見てみたかったなーと言う思いがするのでありますが……しっかり出ていて、なかなか想像力を書き立てるというか、なんというかセンスがあるような気がするのであります。
後は、登場人物……特に、フッコちゃんとコオのおーちゃんがなかなかいい感じなのであります。フッコちゃんは、一言で言うとめがねっ子。しかも、自分が考えるに、彼女は心にめがねをかけている真性のめがねっ子じゃないかと思うのであります。自分が考えるめがねっ子を具現化したものが彼女……というか、ぶっちゃけていうと時期的に、自分がめがねっ子に開眼したのはおそらく彼女なわけで、原体験と言うことなのでありますよ。つーか、たぶん自分小野敏洋氏の漫画でいろいろ開眼している気がする。おそらく、コミックスだと電人ファウストの著者上山徹郎氏、サイポリスの上山道朗氏ご兄弟、そして「がんばれドモンくん」の著者(とあえて言う(ぉ))のときた光一氏とならぶ……というかおそらくその中でも一番、自分のさまざまなモノの原体験になりえている気がするわけで。
しかしそれぐらい衝撃的だったのであります。決定的な幼馴染でありながらめがねっ子。そして遺伝子的な種族の垣根などを超えて響くその愛らしさと言うかなんと言うか、それがすばらしいと(ぉ
さらにねーちゃんでしょうか。なんかしっかりしたお姉さんという展開で、一切の火事を引き受けているというか、一家の母的な役割をしょって、じーちゃんとコオとの三人でくらしているんでありますが、彼女が要所要所で占めてくれるから、なかなかなのであります。制服着て帰ってくるシーンがあるので、中学生か高校生ぐらいなのだと思われますが、なかなかしっかりしていい子だなーと。不慮の事故で*1爆破されたときも、次の週になったらしっかりしていたとかそういうのがなかなか。
さらに、小野敏洋氏は、キャラクターの見せるカットというのをちゃんとわかってくださっていて……というかリアルタイムで読んでいたころ、かなりどきどきしたカットがありました。もっとも、その前にバーコードファイターの、巻にして五巻目くらいのさくらちゃんのカットによっていろいろあったのでアレですが(ぉ それなりにあるのがいいです。素直にかわいい。
そして、そのような形で作り上げられた雰囲気というか空気感、キャラクターが紡ぐストーリー。 ストーリーは第一話でヤドカリくんがコオのうちにくるまでを描いて、その後徐々にサメ人間たちの襲撃って言うんだかなんだかをかいくぐったり、ヤドカリくんがさらわれそうになったりといったようなことが後、代替四話から五話あたりで急激にストーリーが進み、六話、七話で物語全体にある謎と言うかそういうものが解かれるといった感じであります。
これも、なんというかな……たとえば「勇気」とか「友情」とかそういう象徴的なものでもなければ、大人で言うところの「動物子どもを出せばよい」的な安易なもの……それこそ少年を舐めているのか貴様と言いたくなるようなストーリー……ではなく、きっちりと謎が明かされるようにできているのがすばらしいのであります。いきなりこういうものがある世界ですよ、ではなく、ある程度の理由があると言うのがちゃんとしていいい感じなのであります。
もちろん、少年誌的なまっすぐなものもちゃんとあります。
というわけで、以下ネタバレ含む。
そして、ひとつだけ残念なことを。それは、装丁、とくにカバーでありますか。なんかしらないですが今回は光沢のあるラメのようなコーティングがしてあって、光をあてるときらきらするのでありますが、これの意味がわからないというか……。実は自分、以前でたてんとう虫コミックススペシャル版のヤドカリくんを所持しているのでありますが、こちらはちょっとつや消しで、特殊な素材をカバーに使ってあるのであります。なんというかこういうのをやってほしかったなーというのはちょっと思いました。まぁその、内容には関係の無い部分なのでありますが。
最後に。この作品の関しては、もともとアニメ等の企画だったのだそうであります。いつか、それを見ることができることを祈りつつ。 いや、なんというかいろいろな話がありそうなので。じーちゃんの若かりしころとか、コオとねーちゃんの両親とか、きっとねーちゃんは母親似なんだけれども……とか。そういう話を聞きたいと
評価は10中∞。 おそらく自分のコミックスや小説などに対する原体験のひとつであります。自分のオールタイムベストコミックスのひとつ。おそらく頂点。
過去にbookグループのほうで書いた感想もよかったらどうぞ。