高森太郎の日記。

高森太郎の日記です。

『ライトノベル完全読本』

ライトノベル完全読本 (日経BPムック)

ライトノベル完全読本

発行/日経BP 日経BPムック

 日経キャラクターズ編集部がつくった、ライトノベルを網羅する読本であります。目次などは公式の紹介をごらんいただくとして、なんぞざっと感想を。

 まず、一番最初に、デザイナーのお二方の後に、少々微妙(^^;)なライトノベルマップなる企画があり(ああやって分けるのはちょっと無理じゃないかなと思う)お話の後にランキング。
 その……募集した場所がインターネットで、しかもその……自分が知る限り、非常に濃い方面を中心に告知を行い情報が流れて呼び込まれましたし、そもそやっているのが日経BP社の日経キャラクターズであるというところから、やっぱりそれなりに母集団に偏りがある気がするけれど、しかし、純粋にお勧めできるかな。 これが「このライトノベルがすごい!」の前だったらもっとインパクトがあった気がするが、あの企画がなかったらこれ自体出てこなかったのではないかと言う気もしなくもなかったり。

 その後、富野由悠季氏と福井晴敏氏の対談と続きます。それは、それほどライトノベルをべったりではないけれど、しかしその一つの形に多大な影響を与えてきた富野氏の話と言うのは、ちょっと外側から見ている感じなかなか興味深いです。そこから、氏自身の今までの作品、小説を出すきっかけ、今後についてもちょっと語られてます。
 自分としては、富野監督が小説を出すとき「SFに巨大ロボットは……」というところでいろいろあった、と言うくだりがなかなか興味深く。が……もうちょっと、「ライトノベル完全読本」的につっこんでほしかったな〜というか聞いてみたいと思ったり。
 そしてその後に、ガンダム小説大全が。追っていったらほとんど自分読んだことがあってびっくり。自然に富野氏の本を買っていったらたまったという……持っていないのは徳間版「逆襲のシャア」だけど、あれも『ハイ・ストリーマー』は持っているので、読んでいたり。そして、ライトノベル完全読本向けのアンケートにて「ガンダム小説について」として個別に尋ねられた場所がありましたが、その結果によるランキングがありまして、まぁこれは当然でありましょう。もしこのランキング一位になったものを読まずにガンダムファンを方ってはいけません的というか……以前、「ギギ・アンダルシア」は富野キャラとは思えないほどいい娘だ!といっていたとか、それと対比してマフティーが……とか。あれをよんで、「あぁ、富野の一年戦争からの流れが一つ終わったんだ……」と思えます。小説家富野由悠季ガンダムと言う感じであります。読んで無い人はとりあえず読むべきでおすすめ。


 そのあとには日本の各主要レーベルのアンケートが、その一部その編集長の顔写真付きで乗っております。これはそのレーベルのことはレーベルの人、と言う感じで利いているわけですが……それと同じくらい、それに答えている編集長などの方々のプロフィールがなかなか興味深い。それ自体が、レーベルの方向性を決めているとすら思える感じ。それのなかで、なんとなく方向がにじみ出ているような。また、そのなかで「レーベルの方向性を決めた作品」として挙げられています。
 自分としては、スーパーダッシュ文庫の編集長丸宝行晴氏のが他のに比べて異彩を放っていて面白かった。また、徳間デュアル文庫、ハルキ文庫ヌーヴェルSF文庫もちゃんと答えていて「これからもちゃんと出して!」と思います。特にヌーヴェルSF。
 古参レーベルは「創刊のころは……」と言う感じで貫禄が、そして新参レーベルは「こうしまっせ!」みたいな。


 さらに、その後にはライトノベル史が。下のほうにそのころを総括した文章が載っていて、そこに結構初耳なことが多く……しかし興味深いが、もうちょっと「そのころの本だとこれが代表的でおすすめ!」みたいに本を読む方向でつなげてくれたらな〜とか思ったり。
 これだと……意外と角川系が出てきたのって遅いと言う印象があるなぁ。
 そしてイラストの遷移。新世代のイラストレーターとしてなにげに自分がファンの三人氏が出てきていました。

 そしてその後マンガに、なんか某作家の本物原稿が載っていたりしてすげー読みて〜と思いつつ、メディアワークス社長のインタビューがあり、そして「ジャンル別名作紹介」。名作紹介は良くまとまっていて、とりあえず誰かに勧めるならこれを読んでもらうかな、と言う感じであります。


 そして!その後に、自分が買うかなりの面を含めている緒方剛志×放電映像対談。P133の写真がなんか対比だな〜と言う気もしますが(汗 放電映像氏が最近注目のイラストレータであるということを改めて。放電映像氏のファンであります自分は、これもすげーいいわけですが、これと一緒に、ベテランイラストレーター二人の対談も読んでみたかったなーと言う気も少々。そうすればいろいろな対比が。出てきてインタビューを受けている人の仲で明らかに若いですし。


 その後、コラムが続きます。
 大森望氏が「一般文芸の世界からみたライトノベルの存在とは?」をテーマにかかれてまして、これは、結構大森望氏はよくおっしゃっていることをさらに詳しくと言う感じであります。
 その後金原瑞人氏という方が「小説創作ゼミとは?」とテーマにコラムであります。ん?このお人だれ?と思ったところ、古橋秀之秋山瑞人両氏の恩師にして、『蛇にピアス』の金原ひとみの父親だそうであります。そして非常に興味深い話。これ、小説の創作をなさっている方はもっと興味深く読まれるんじゃないかな。また、やっぱり大学と言う場所は貴重で特殊な場所なんだな、と、専門学生はちょっと思ってみたりして。
 そしてあの「百合姉妹」の編集部が特別寄稿!ということで、ライトノベルと百合ブームというテーマでコラム。というか百合姉妹をなにげに購読している自分としては、なんか「百合姉妹出張版」というかんじであります。そして……なんとなくあんまり百合姉妹を宣伝してなくて、「百合小説のススメ」と言う感じでありまして、なんか一つのムーブメントなんだな〜と。しかし女性読者が非常に多いと言うのが以外だ、とかかれてましたけど、自分は「まぁそりゃあそうだろうよ」と思ったりして。


 その後は、まるでヤクザ映画の親分のような(コラ 角川春樹氏のインタビュー。氏のライトノベルについての考え方ですな。よくよく深く読むと、やっぱりこの人も活字好きの人間なのだ、というかんじであります。
 さらに、「イラストレーター3年目でした」というマンガがありまして、その後……。


 その後は岩井志麻子×森奈津子×中村うさぎ鼎談。「わしらが少年・少女作家だったころ」と題されてまして……これはまぁ、自分はぺーぺーで、御三人のライトノベルはリアルタイムでは知らないの野郎でありますので、特にいうことなしというか……中村うさぎ氏が、もうライトノベルに戻る気が無いということは分かりました。というかついていけない……。

 さらに「ライトノベルアンケート」の回答者層などが乗っておりまして、そして、その後、作家対談では私的メインである「冲方丁×古橋秀之対談」が。

 なんというか、すごい2ショットだな〜と思いつつ、濃いお二方であります。そして、それを大森望氏が司会をしているわけであります。特に、冲方丁の富士見ファンタジアでの姿勢とか、ライトノベルでの制約みたいな、そういう話がなかなか興味深い。というか妹ですか。つーかあの『タツモリ家の食卓』のあとがきはマジだったんですか(汗そして……やっぱり冲方丁氏はライトノベルについて、一つ先の方向まで考えているんだな、というところがあらためて思います。そして、さらに新人のシステムについてなどについても。
 


 さらに、ライトノベル全体をどうにかしたいと考えていらっしゃるということでありまして……たぶん、冲方丁氏はすでにそこらへんまで考えていて、動いているんじゃないかと思える感じでありました。
 というかそこら辺に、いまいち閉塞感がある現在の小説、出版業界全体の爆発につながる気がする……。
 以前クローズアップ現代で電子書籍などについて特集なんかとか色々思いつつ、また、コンテンツの流通の話も。
 なんかすげー興味深かった。やっぱり濃いな〜。


 その後、小川一水によるコラム、TTRPGについてからのコラムふたつ、そしてあの「書泉ブックタワー」のライトノベル担当氏のインタビューが乗ってましてこれも興味深い。発売日をきっちり狙ってくるなどは、そういえば自分も必ず発売日に買うな〜みたいな。といかやっぱり是非ブックタワーには一度は行ってみたい……。

 その後「私はこうしてデビューしました」というライトノベル系作家への直接アンケートが。メジャーで、かなり活躍中の作家ばかりでありまして。
 その中で、P178の賀東招二氏が、「私はこうしてデビューしました」からは若干離れるけど、興味深いことをかかれてます。

 その後自分はよく存じ上げない巨匠の作家平井和正氏のインタビューの後、インターネットでのことを書いた「あの名作を探せ!」と題したコラム、「PBMとライトノベルの関係」という、非常に興味深いもコラムも。というかこれに関しては、本日付の成田良悟氏が本日2004/07/25付けでコメントをしてます。自分は……PBMと言うものは、名前程度しか知らなかった。こういうものか……。
 さらに、「アニメ関係者から見たライトノベル」と題した、オニロ社という会社の社長さんのインタビューも。なんかライトノベルがアニメ化といえば「なんか原作と違う〜」みたいな話が多いですが、なるほど、アニメ側からみるとこういう視点になるのか。また最後に野尻抱介ロケットガール』のアニメ化の話が動いている、というのは期待。あれってたしかパイロットフィルムまで出来ていたという話がありましたし。

 その後、ゲームブックについてのコラムの後、主要ライトノベル新人賞の応募要綱が一覧表示され、そして下読み(主に最終選考で選考委員にまで行く間の選考を担当なさる方々)という方の、心の叫びというか、送るときに注意すべきことが書かれています。これは送ろうとしている方は一読しておいたほうがいいかも。

 最後に、「えっと、あとがきについてです」というあとがきについてのコラム。ブラックロッドはやっぱりコウ見ても異色を放っているな〜みたいな。やっぱりライトノベルのほぼ必ずあとがきがある、というのは特殊なのかな〜、たしかにたのしみにしている。見たいに思ったり。
 その後、五臓六腑氏の『新言語ラノベ學講義』はなんとも。一度はライトノベルを、普段から非ライトノベルの小説を読んでいる人に勧めると、こういうかんじだよな〜とニヤリとしてみたり。


 全体的には、たしかに「ライトノベルの読本」でありました。読書ガイドと言う性質より、ライトノベルをさらに深く知る、みたいなそういう方向のものです。なので、「ライトノベルを買う道しるべ」というのには、これはあまり向かないかも。だけど、これはそういう感じじゃなくって、「読本」。興味深かった。自分は「どんな人が書いているんだろう」みたいな興味のあたりから呼んでいるからかもしれないけれど、ここでなんだか高尚に「この本が大賞を取ることは必然且つなになにであるが、しかし、私はこれに納得しない」みたいな「は?なんで?おもしろいと素直にいえないのか?」みたいなものがなくって、しっかりライトノベルしているのがいいかんじでした。もちろん、切り口は日経系の、ちょっと外側から見る感じの切り口なのですが。


ちょっと……その急いで作りました的なところろも(P012のマップのロゴが二重とか(^_^;))あるんですけど(汗


 あと、もうちょっと若手の作家とか、「今後のライトノベル」みたいな固めじゃなくて、もうすこし、活字倶楽部みたいに気楽に「私はこの本がすきですよ」みたいな、本好きが本をおすすめするとか、そういう感じの軽いライトノベルに関する本「ファンブック」的なのも読んでみたいな〜とも思ったり。活字倶楽部の編集部さんとか書かないかな〜とか思ってみたり。むしろ、こっちのほうがライトノベルらしい。高いところから講釈するのではなくって、「ねえねえ、これおもしろいよ!。え?理由、理由は……とにかくおもしろいの」というのがライトノベルって感じもしますので、そういうのも読んでみたい。

 いつか、「ライトノベルとは何か」みたいに論じるものが出てきて、「最近ライトノベルがすごいらしい」みたいに流れ込んで着たい人がたくさん出て、そしてその人たち向けに本が出たとき……そのときからライトノベルがしぼんでいってしまうように思えて仕方がなく、たのしいからいいじゃん、エンターテイメントだぜ、見たいなのがいいわけでありまして。
 これを読んでみて、この本はライトノベルを読む、書くひとが書いているから、結構いい感じなんだけれど、それとは関係なくふと頭をよぎったのですが。
 これから後、たぶん結構注目されるような気がする。ここのところそういう、特集記事が組まれます、新聞に載りました、みたいなニュースばかり聞くし。これからなにか鼻が利くようなブームを作り出す人たち(非ライトノベルの人)に目をつけられて「ライトノベルとはXXである!」みたいに無理やり膨らまされたりしたときには……あまり愉快じゃないことが起きる気がする。自然に広がっていくというか、一時期、急に新レーベルが乱立したときも、同じ事を思ったんだけど。次にどういう会社が、どういう風にライトノベルに関する本を出すか、それが結構重要かもしれない。ライトノベルって「あなたがそうだと思うものがライトノベルです。ただし、他人の同意を得られるとは限りません。」(2ちゃんねるライトノベル板)だからいいんじゃないかな〜と言う気もして……。ライトノベルが好きになる人が増えていく、ライトノベルライトノベルじゃないものが溶け合っていくというのは、それはすばらしいことだと思うんだけど、そうじゃなくて無理やりと言うか硬直化して膨らむというか……

 と、抽象的にぐだぐだまとまらない事を考えていたら、id:kim-peaceさまが、ご自身の日記温故知新@はてな2004/07/24に、コンパクトに書かれているのを拝読させていただきました。そして、はっとする。


私はライトノベルを意図的に「文学」にする必要は無いと思います。

世間の評価は後からついてくるもので、無理矢理認めさせるものじゃないはずです。

楽しんで読めるからこそ「ライトノベル」が私は好きです。

 なるほどな〜と思ったり。同意であります。



 とりあえずライトノベルが気になっていて、執筆作家に気になる作家がいれば是非。内容は詰まってます。