時雨沢恵一『リリアとトレイズ (3) イクストーヴァの一番長い日<上>』
アリソンは一人、街の年越しの祭に。そして二人きりになった二人は、雪が降り続く中、のんびりと、静かに、年越しを迎え、トレイズはリリアに伝えなければならないことを話す、はず、だったのだが……。
時雨沢恵一の『キノの旅』と並ぶ代表シリーズ、最新刊。そーいえば、時雨沢恵一の著書って、みんなキャラクターの名前がついているんだなぁ、などということをいまさらながらに思ったりとか。
今回は、トレイズは一大決心をしてリリアに重要な話をしようとするのだけれど、やっぱり失敗しましたよ、という話……じゃなくって(ぉ リリアとアリソンは、トレイズの招きに応じて、イクストーヴァの首都、湖岸の町へと行きます。年末年始の冬の物語であります。
やっぱりテンポと会話を読むっていうか、頭の中でそれを再生する、みたいな、そういう感覚の本であります。というか、人々の会話なんかがすごくたのしい。本人たちもたのしげに話をしていたりとか、そうでなくていたってまじめだったりとか、深刻だったりとかするのだけれど、そういう会話を聞いて、なんとなくこっちがにやりとしてしまう、そんな感覚を楽しむ、そういう「会話」を楽しむもの、そして、ひとつの事が起こった後に展開していくテンポの良いストーリーがなんともいえずよい。
さらに、シーンというか場所、人が物語の中で同時進行的に交錯していくものが、またそれらを加速している感じであります。
というわけで以下ネタバレ含む。
最後に。 自分はかつて某作品で味わった「上巻を読んでしまってから下巻が出るまでの苦しみ」から逃れるために、上巻として発売された作品は、下巻が発表されるまで決して手をつけないと心に決めていたのであります。
決めていたのですが……やっぱりなぜかこの本だけは我慢が出来なかったという……まぁともかく。
評価は10中9。下巻は5月発売予定だそうであります! 楽しみに待ちつつ。